パラグラフテキスト |
埼玉県所沢市を中心に中国残留邦人を診察する内科・精神科の児玉奥博医師。訪ねたのは中国残留邦人たちが日頃利用しているデイサービス「一笑苑 所沢」。平均年齢は80歳。高齢化が進み、医療が必要にも関わらず、言葉が通じないことが壁になっていた。幼い時に中国で暮らした経験を持つ児玉医師、中国残留邦人たちが適切に医療を受けて欲しいと訪問診療に乗り出した。訪問診療を始めて1年、言葉の壁以外にも中国残留邦人たちに特有の問題があることが少しずつ見えてきた。中国残留邦人2世の横田永子さん76歳。中国残留夫人だった母と中国人の父の間に生まれ、49歳で来日。診察の際、児玉医師が必ず確認するのが薬を飲まずにため込んでいないか。中国からの帰国者には苦しい戦後を生き抜いた経験から人をすぐには信用できず、指示通りに薬を飲まずにため込む人が多いという。過去のつらい体験から人と信頼関係を築けず鬱状態と診断された患者もいる。木村和子さん82歳。4歳で両親と離別し中国人の養父母に育てられた中国残留孤児。中国で成人した木村さんは小学校の教師として働いたが、肉親探しのため日本人と明かしたところ退職を迫られることになったという。その後、幸い日本で肉親が見つかり、1988年47歳のときに帰国が認められた。期待を膨らませ肉親に会うために日本に戻った木村さん。ところが、歓迎されるどころか冷たい対応をされたという。中国でも日本でも自分は認められないと感じたという。デイサービスの代表は、こうしたつらい記憶がいまでも木村さんの心を蝕み続けていると見ている。どうしたら木村さんの心の傷を癒やすことができるのか、児玉医師が心がけたのは家族のような雰囲気作り。何気ない会話を重ねることで距離を縮め、不安を吐き出してもらいたいと考えている。 |